2026.05.27

事業承継は「誰に渡すか」から「渡した後どう伸ばすか」へ——日本発サーチファンドの米国買収に学ぶ、AI時代の承継

後継者不在率は7年連続で改善。それでも小規模企業の6割近くが後継者を持たない。承継のボトルネックが「引き受け手探し」から「引き受けた後の価値創出」へ移るいま、日本発のサーチファンドが示した一手を読み解く。

後継者不在率は50.1%——「改善」の裏に残る小規模企業の壁

帝国データバンクの2025年調査によると、全国の後継者不在率は50.1%。前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善、ピークの2017年比では16.4ポイントの大幅低下となった。M&Aや第三者承継の浸透、「脱ファミリー」経営の広がりが背景にある。

ただし分解すると景色が変わる。大企業の不在率が24.9%にとどまる一方、中小企業は51.2%、小規模企業は57.3%。規模が小さいほど後継者対策は進んでいない。全体は改善でも、地域の小さな優良企業ほど「引き受け手がいない」現実は根強い。

ここで論点が変わる。承継の難所は、もはや「誰かに渡せるか」だけではない。渡した後にどう伸ばすか——買い手の「承継後の価値創出力」が問われる時代に入っている。

日本発サーチファンドが米国企業を買収——「資本×経営×人材×AI」

その象徴的な一手が海外で生まれた。インクルージョン・ジャパン(ICJ)は、ファンド・オブ・サーチファンドを通じ、秋山紳右衛門氏が2025年に米国で創業したAkiyama Capitalへ出資したと発表。Akiyamaは約510万ドル(約8億円)を第三者割当で調達し、主に米エグゼクティブサーチ会社TEG Consultingの買収と買収後統合、追加買収の体制づくりに充てる。

際立つのはスピードだ。2025年8月の渡米から約9か月で初回買収をクローズ。2年前後かかることも多いサーチファンドにおいて、業界平均の約2.5倍速にあたる。

TEGは創業30年、PEファンド向けの経営幹部層人材紹介に強みを持ち、米東海岸4拠点・14名体制。ICJの開示によれば年商約6億円、EBITDAマージン約25%、取得倍率5x EBITDA——米PE市場の平均10〜12xに対し割安な水準だという(いずれもICJ開示値)。Akiyamaはこの人材ネットワークを起点に、地方の優良企業をLBOで連続買収するロールアップを描く。

米国の事情も日本と地続きだ。戦後を支えたベビーブーマー世代のオーナーが大量退任期に入り、年間60万件規模の承継ニーズが見込まれる(ICJの発表が引用するMcKinsey Institute for Economic Mobility)。後継者不在は日米共通の構造課題であり、資本だけでなく経営・人材・テクノロジーを束ねて入る買い手が現れ始めている。

問われるのは「いくらで買うか」より「買った後に何を実装できるか」

注目したいのは秋山氏の言葉だ。「資本、経営支援、人材、AIを組み合わせて買収先の成長を支援する」。承継を所有権の移転で終わらせず、買収後に経営・人材・テクノロジーを差し込んで価値を伸ばす——この発想は、私たちGluoneが掲げるAI-native Compounderと同じ地平にある。事業承継局面のSMEを買収し、AI実装でオペレーションを再構築して企業価値を高める、という考え方だ。

承継M&Aの巧拙は、買収倍率の安さや件数だけでは決まらない。買った後にどれだけ価値を積み増せるか——PMI(買収後統合)の質と、現場に実装できる能力で差がつく。仲介して終わりではなく、「買って育てる側」が主役になりつつある。

まとめ

後継者不在率は改善傾向にあるが、小規模企業ほど壁は高い。承継の論点が「引き受け手探し」から「引き受けた後の価値創出」へ移るなか、資本に加えて経営・人材・AIを束ねられる買い手が市場の主役になっていく。承継を検討するオーナーにとっても、「誰に渡すか」と同じくらい「渡した先が何を実装できるか」を見る視点が、これからの判断軸になる。

Sources:

【執筆者】Gluone. 編集部


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